よしっこれで片付けも終わりだな。
英二が去った後、執事に集中しながらなんとか無事にクラスの役目を果たす事が出来た。
予想以上の繁盛で、クラスの売り上げも上々ってとこだろう。
みんな喜んでいる。
俺はそんなクラスの仲間達を横目に見ながら、声をかけた。
「みんなお疲れ様!この後、後夜祭に参加する人は18時からだから仮装して来てくれ」
「おー!大石お疲れ!この後も生徒会大変だけど、頑張れよ!」
「あぁ。じゃあお先!」
クラスのみんなに見送られながら、俺はクラスを後にした。
さっじゃあ英二を迎えに行って、次は部室で着替えて後夜祭の準備だな。
今日一日頭の中で、次は何だったかな?って確認してきたが・・・
いよいよラストだ。
これが終われば、今日の俺の役目は終わり。
文化祭も終わりか・・・
そう思うと少し寂しい気もするけど、まだ後夜祭が残ってる。
最後までちゃんと気を抜かないようにしなきゃな・・・感傷はその後だ。
気持ちを新たに引き締めて、英二のクラスへと足を運んでいると後ろから声をかけられた。
「大石」
振り向くとそこには手塚が立っていた。
「手塚・・・お前も今終わったのか?」
「あぁ」
「じゃあ今から後夜祭の準備だな」
「あぁ。だがその前に不二を迎えに行く。お前も菊丸を迎えに行くのだろ?」
「あぁそうだ。じゃあ一緒に行くか」
俺は手塚の肩を叩いて、英二のクラスへと足を向けた。
英二と不二のクラス3−6までは、ほんの目と鼻の先。
手塚と後夜祭の話を少ししただけで着いた・・・が
何故か3−6の教室には人混みが出来ていて、凄く騒がしい。
手塚と顔を合わせて、首をかしげた。
「もう終わっていてもいい筈なんだけどな」
「そうだな」
「どうする?誰かに呼んで貰おうか?」
「その方が早そうだな」
手塚の意見も確認して、英二のクラスの誰かに俺達が来ている事を伝えて貰おうと 教室のドアに近づくと、大きな声が聞こえた。
「もういいだろ?そこどけって!!」
アレ?この声は・・・英二だよな?
そう思った時に、その人混みの中から誰かが飛び出してきた。
「手塚ぁ!!」
「ふ・・・じ?」
手塚の前に駆け寄って来たのは、紛れも無く不二なんだが・・・
不二の格好が・・・いつもの不二じゃない。
黒のワンピースに白いエプロン・・・頭にも白い何かつけていて・・・
俺はその姿に思わず言葉を失って、手塚の顔と不二の顔を交互に見てしまった。
手塚は眉毛がピクッと上がったきり、固まってしまっている。
「手塚」
もう一度不二が手塚に声をかけると、手塚は弾かれたように動き出して、不二の腕を掴んだと思うと、ズンズンと何処かへ去ってしまった。
俺はその姿を呆気に取られながら見ていて、何も声をかける事が出来なかった。
一体なんなんだ・・・今のは・・・・?
っていうか・・・待てよ・・・冷静に考えて・・・
不二があんな格好をしていたという事は・・・
俺はまた教室に目線を移した。
そこにはまだ人混みが出来ていて、英二らしき声もしている。
「ちょっとどけって!不二の奴!俺だけ置いていきやがって!!」
やっぱり英二だ・・・
あの人混みの中に英二がいる。
「英二!」
俺はその人混みの中を割って入って行った。
「ちょっと悪い。通してくれるかな」
人混みを掻き分ける様に、なんとか割って入った先で見たのは、不二と同じ格好をした英二。
「何やって・・・」
言いかけた時に、英二が飛び出してきた。
「大石っ!!」
そして俺の腕を掴んだと思うと走り始める。
「わっ!おい英二!」
「んじゃな!みんなお疲れ〜!!」
一旦入り口で止まった英二は、振り向きざまにクラスのみんなに声をかけると、キャーとかワーとかもう悲鳴に近い声をみんな上げていたが
英二はお構い無しにまた走り出した。
どんどん俺の腕を引っ張りながら、加速する英二になんとかついて行く俺。
すれ違う人達は、そんな俺達を必ず驚いた目で振り返る。
そりゃあそうだよな・・・
英二のメイド服だけでも目立つのに・・・
俺もまだ執事服のままだ・・・
疾走する。メイドと執事って・・・
そう思っている間に、英二が何処かの教室に逃げ込んだ。
「ハァハァハァ・・・ったく酷い目にあった」
英二は息を整えながら机の上に腰を下ろし、俺はその前に立った。
「大丈夫か英二。それにしても何でそんな格好してるんだ?」
不二もだけど・・・
確かメイドは女子だけがするって聞いていたと思ったんだが・・・
「何でって嵌められたんだよ!あの時さ忙しくて手が足らないっていうのは
裏方じゃなくて、メイドの方だったんだよ。
それで俺は最初は絶対嫌だって言ってたんだけど・・・
不二が大石が見たら喜ぶかもよって耳元で言うし・・・
それに手塚はどんな顔するかなぁってやる気になってるし・・・・」
「そうだったのか・・・」
不二の奴・・・英二を巻き込んだのか・・・
そんなに手塚に見せたいなら一人で着ろよな・・・ったく・・・
でも・・・改めて見ると・・・ホント可愛いな。
制服の英二も、ユニフォームの英二も、ジャージの英二も、私服の英二も全部可愛いけど
メイド服もホント似合っている。
昨日英二のクラスを覗いた時に、女子のメイド服も見たけど・・・
それにさっき飛び出してきた不二も少し見たけど・・・
英二が一番可愛いと思うのは惚れた欲目なのか・・・
ボーと思わず見惚れていた俺の視線に英二が気付いたのか、顔を赤くしながら照れている。
「どうかな?似合ってるかな?」
「えっ?あっ!あぁ・・うん。凄く似合ってる。可愛いよ!」
「へへへ・・・んじゃやって良かった」
ニカッと笑う英二の笑顔に更に釘付けになった。
ヤバイ・・・ホントに可愛い
「大石もさぁ・・・執事の服似合ってるよ」
「えっそうかな?ありがとう」
メイド姿の英二が俺の襟を直してくれる。
駄目だ・・・集中力が途切れる。
っていうか俺・・・喜んでるよな。
これじゃ不二の思う壺だよ・・・
何とかして英二を早く着替えさせなきゃ
「英二だけど、そろそろ後夜祭の準備に行かなきゃ・・・」
「え〜まだいいじゃん。それより記念に一緒に写メ撮ろうぜ。
さっきもさクラスの奴が撮らせてくれって煩くてさぁ」
「撮らせたのか!?」
思わず英二の肩を掴んでしまった。
この姿を誰かの携帯に残すなんて・・・そんなの駄目だ。
「えっいや。まぁ全く撮られてないって事はないかも・・・だけど
だいぶ抵抗したかんな。まともに写ってるのはないと思うけど・・・」
「そっそっか・・・良かった」
俺は思わず胸を撫で下ろした。
こんな事で、心の狭い奴って思われるかも知れないけど・・・
やっぱり出来ればこの姿は俺だけにして貰いたい。
「おーいし。んで、携帯は?今持ってるのか?」
「えっあっ・・・ごめん。今は持ってない。今朝着替えを部室に持っていった時に
鞄の中に入れたままだ。英二は?」
「俺も教室だ・・・っていうか・・・荷物全部教室だ」
「じゃあ取りに行かなきゃ」
「今行ったら、また掴まるじゃん。もう少しここで時間潰して、みんなが後夜祭に移動した頃にこっそり取りにいこうよ」
「それだと準備に間に合わないじゃないか・・・って言ってられないか・・・
確かにさっきの中に戻るのはキツイな」
「だろ?それに準備は他の奴もいるからいいじゃん。後夜祭だって遅れて行っても テニス部は俺らだけじゃないしさ。誰かがフォローしてくれてるって」
「そう・・だな・・」
みんなには悪いけど・・・今の状況じゃ仕方ないよな・・・
後でみんなには、ちゃんと謝るとして・・・
暫くここで時間を潰すか・・・
「あっそういえば忘れてた!!」
「何を?」
突然大きな声を上げた英二に驚くと英二が俺に手を差し出した。
「trick or treat!」
「えっ?」
「trick or treat!」
急にそんな事を言われても・・・準備なんかしていない。
一応後夜祭の方では、お菓子を用意してるんだけど・・・
俺は無駄だと思いながら、ポケットの中を探った。
あっ・・・
指に当ったこれは・・・
そういえばクラスの片付けをした時に、残ってあったのをポケットに入れたんだ。
「Happy Halloween !」
俺は英二の手の上に、封の開いたプリッツを乗せた。
「へ?」
「Happy Halloween !」
「何だよ。もっといいものくれよ」
「急に言われても準備してないよ。それにまだそれがあっただけでもましだろ?」
「ちぇー仕方ないなぁ。来年は何か用意しといてよね」
しといてよねって・・・俺だけ?
英二は見るからに何も用意してないのに・・・
相変わらずのわがままぶりに、少し悪戯心が芽生えた。
「trick or treat!」
「へ?」
「trick or treat!」
俺は英二に手を差し出す。
英二がどんな顔をするかなって・・・ちょっとした悪戯心
だけど英二は一瞬困った顔をした後、プリッツを見てニッと笑った。
そして俺があげたプリッツを口に銜えると、顎を突き出す。
「んっ!」
「えっ?」
「んっ!」
えぇ!!!!!
これを食べろって言うのか・・・?
目の前に突き出されたプリッツを少し眺めて、英二を見ると、目が食べろと訴えかけている。
誰もいない事はわかっているけど、ここは教室だぞ?
そんな事出来るわけ・・・・・・・・・・・・・・・・・
いや・・・でも・・・メイド姿の英二にこんな事してもらえるのは、もう一生ないかも・・・・・・・・
そうだな・・・少しかじるぐらいなら・・・
俺は何度も回りを確認して、英二の肩に手を置いた。
大丈夫だよな・・・
少し迷いながら、プリッツの端を口に入れる。
するとドンドン英二が食べ進んできた。
えっ?えっ?えぇぇぇぇーーーー!!
あっと言う間に英二の唇が、俺の唇に到達した。
「Happy Halloween !」
「・・・・・・・・」
敵わない・・・やっぱりこういう事に関しては、英二の方がずっと上手だ。
俺は自分の唇を押さえながら、赤くなってるだろう顔をそむけた。
英二はニャハハと満足そうに笑っている。
「ったく・・・見られたらどうするんだよ」
「嬉しかっただろ?」
覗き込むように、笑顔を見せる英二につい本音が出てしまった。
「・・・・まぁ・・・うん」
「これもメイドの奉仕の1つです」
「えぇ!こんな事してたのか?」
「馬鹿!大石だけに決まってんだろ? ・・・でプリッツしか持ってない執事は俺に何奉仕してくれるのさ」
奉仕って・・・また急にそんな事言われてもな・・・・
ここには何もないし・・・・
「奉仕って言われても、どうすればいいんだ?」
「う〜ん。そっだなぁ・・・取り敢えず、さっきのお返しにキスして貰うとして・・・
後は夜に奉仕して貰うか?」
「えっ?夜」
「そっ!夜。今日大石の家に泊まりに行くから」
「えっ?そんな事言ってなかっただろ英二?」
「言ってないよ。だって今決めたもん。いいだろ?って事で取り敢えずキスだな」
いいだろって・・・そりゃあ構わないけど・・・
その・・・夜の奉仕ってやっぱアレ・・・の事だよな・・・?
っていうか・・・その為に泊まりに来るのか?
まぁ・・・俺ん家に来た時は、今やそれもセットみたいになってるけど・・・
でも一応はその前に、勉強したり、ゲームしたり、DVD見たり、雑誌見たり・・・
他の事がメインで・・・アレが後な訳で・・・
その事がメインで来るなんて・・・
駄目だ・・・顔が緩む。
「大石。お返しのキス」
英二が俺の腕を揺さぶる。
「あっ?あぁ。えっと・・・」
俺はまた何度も辺りを見回して、そっと英二にキスをした。
へへへっと英二が照れた笑いを俺に向ける。
ホントに英二のペースだよな・・・
「ところでさぁ。大石は後夜祭の仮装、結局何にしたの?」
「俺か?言ってもいいのか?」
「言いよん。もうこの調子だと仮装も出来ないかも・・だしね」
「そうだな。じゃあ言うけど笑うなよ・・・
実はこの格好の上にマントをつけて・・・ドラキュラ」
「その格好の上にマントをして、ドラキュラ〜?
大石ってホントお手軽志向だよな」
ケラケラ笑いながら、指をさす英二。
確かに俺も手軽だと思って決めたんだけどさ・・・そんなに笑わなくても・・・
「悪かったな。そう言う英二は何をするつもりだったんだよ?」
「えっ俺?驚くなよ。俺はピーターパン!
衣装も姉ちゃん達が作ってくれてバッチリなんだぜ」
「へ〜それは凄いな」
「見たいだろ?」
「そうだな。見てみたい」
英二のピーターパンかぁ・・・・うん。ピッタリだな。
「じゃあ後で着れなかったら、大石ん家に行った時に見せてやるよ!」
「あぁ。楽しみにしてるよ」
「あっでも奉仕してもらう時は、メイド服の方がいいのかな?
それともピーターパンのままでいい?」
「えっ英二?」
「大石の好きな方を選んでいいぜ」
「好きな方って・・・」
もうその時点で、俺が奉仕して貰ってるんじゃ・・?
って何考えてるんだ俺。
でも想像しただけで・・・・ヤバイな・・・・
家まで理性を保っていられるんだろうか・・・
ニコニコ微笑む英二を見ながら、小さく溜息をついて苦笑した。
ホント英二は可愛いよ・・・
メイド服を着てるからとかじゃなくて、英二だから可愛い・・・
愛おしいよ。
英二・・・
ころころ変わる英二の話題
文化祭とハロウィン
今日は一日何かと忙しかったけど、こうして英二とゆっくり過ごせる時間が出来たのは
不幸中の幸いってやつかな・・・?
俺の胸におでこをつけてもたれかかってくる英二を、少しだけ周りを気にしながら、そっと抱きしめた。
そして心の中で、呟く。
ところで英二・・・さっきの質問なんだけど・・・両方って言ったらやっぱり引くか・・・?
10000HIT!本当にありがとうございます!!
これも本当に覗きに来てくれてるみんなのおかげですvv
本当にありがとうございましたvvv
しかし・・・大石がどんどん・・・まぁいいかっ(笑)
これからも頑張りますので、よろしくお願い致しますvv
2007.11.5